最新判決情報

2009年

12月分

  • アンソロポロジー事件

    知財高裁 H21.12.1 H21(行ケ)10210 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)
    知財高裁 H21.12.1 H21(行ケ)10211 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

  • 闘茶事件

    知財高裁 H21.12.10 H21(行ケ)10127 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

  • インディアンアロー事件

    知財高裁 H21.12.10 H21(行ケ)10183 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

  • ハローズ事件

    知財高裁 H21.12.17 H21(行ケ)10177 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

  • テディベアー事件(旧第17類)

    知財高裁 H21.12.21 H21(行ケ)10055 審決取消請求事件(飯村敏明裁判長)

  • テディベアー事件(現第20,24,25類)

    知財高裁 H21.12.21 H21(行ケ)10057 審決取消請求事件(飯村敏明裁判長)

  • ゴヤールバッグ事件

    東地判 H21.12.24 H21(ワ)19888 輸入販売差止等請求事件(阿部正幸裁判長)

  • NU-STEEL事件

    知財高裁 H21.12.28 H21(行ケ)101715 審決取消請求事件(飯村敏明裁判長)

11月分

10月分

  • 新極真会事件

    知財高裁 H21.10.30 H21(行ケ)10038 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

  • 空手道極真館事件

    知財高裁 H21.10.30 H20(行ケ)10323 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

  • 肌優事件

    知財高裁 H21.10.28 H21(行ケ)10071 審決取消請求事件(飯村敏明裁判長)

  • タフロタン事件

    知財高裁 H21.10.22 H21(行ケ)10216, 10217 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

  • インテラセット事件

    知財高裁 H21.10.20 H21(行ケ)10074 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

  • アガサナオミ事件控訴審判決

    知財高裁 H21.10.13 H21(ネ)10031 商標権侵害差止等請求控訴事件(滝澤孝臣裁判長)

  • ディープシー事件

    知財高裁 H21.10.8 H21(行ケ)10141 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

9月分

  • 東京牛乳事件

    知財高裁 H21.9.30 H20(行ケ)10474 審決取消請求事件(飯村敏明裁判長)

  • スキャンメール事件

    知財高裁 H21.9.29 H21(行ケ)10118 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

  • スイブルスイーパー事件

    大地判 H21.9.17 H20(ワ)1606 商標権侵害差止請求等事件(山田陽三裁判長)

  • マジックブレット事件

    大地判 H21.9.17 H20(ワ)2259 商標権侵害差止請求等事件(山田陽三裁判長)

  • 青雲事件

    大地判 H21.9.17 H20(ワ)6054 不正競争行為等差止請求等事件(田中俊次裁判長)

  • アイラックス事件

    知財高裁 H21.9.15 H21(行ケ)10102 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

  • アイディー事件

    知財高裁 H21.9.8 H21(行ケ)10034 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

8月分

  • 東証事件

    東地判 H21.8.31 H21(ワ)3556 名称使用差止請求等事件(清水節裁判長)

  • ピザカンパニー事件

    知財高裁 H21.8.27 H21(行ケ)10022 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

  • モズライト事件

    知財高裁 H21.8.27 H20(行ケ)10415 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

7月分

  • わたなべ皮フ科事件

    大地判 H21.7.23 H20(ワ)13162 不正競争行為差止請求事件(山田陽三裁判長)

  • こくうま事件

    知財高裁 H21.7.21 H21(行ケ)10023 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

  • ウオンツ事件

    知財高裁 H21.7.21 H20(行ケ)10260 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

  • PE'Z事件

    知財高裁 H21.7.21 H21(行ケ)10048 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

  • 東京インプラントセンター事件

    東地判 H21.7.17 H21(ワ)2942 商標権侵害差止等請求事件(岡本岳裁判長)

  • ラブコスメティック事件

    知財高裁 H21.7.16 H21(行ケ)10021 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

  • プレミアム事件

    大地判 H21.7.16 H20(ワ)4733 商標権侵害差止等請求事件(山田陽三裁判長)

  • 天使のスィーツ事件

    知財高裁 H21.7.2 H21(行ケ)10052 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

6月分

  • ミキスポーツ事件

    知財高裁 H21.6.29 H21(行ケ)10007 審決取消請求事件(飯村敏明裁判長)

  • レーザーアイ事件

    知財高裁 H21.6.25 H21(行ケ)10031 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

  • 忠臣蔵事件

    知財高裁 H21.6.25 H20(行ケ)10482 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

  • マグボトル形態模倣事件

    大地判 H21.6.4 H21(ワ)15970 損害賠償請求事件(田中俊次裁判長)

5月分

ファクトリー900事件

知財高裁 H21.5.28 H20(行ケ)10439 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

本願商標「Factory900」が引用商標「SAPPORO/FACTORY(二段書き)」によって拒絶され、その審決の取消しを求めた事案である。
審決では、本願商標中の「900」が商品の型式等を表す数字であることから識別力を欠くとして除外し、一方引用商標は二段書きで、しかも地名である「SAPPORO」が小さく、「FACTORY」が大きく描かれていることから「FACTORY」が要部であるとして、両商標は「FACTORY」の称呼、観念において類似すると判断した。
しかし、判決では、眼鏡業界において数字が商品の型式などであると同時に商標の一部としても使用されている例を認定し、また「FACTORY」の語の識別性が高くないので、本願商標は全体として類否を判断すべきとした。
一方、引用商標についても、外観上の相違はあるものの、商標全体として札幌市にある引用商標権者が運営する大型複合施設の名称であるので、これも一体として認識すべきであり、「サッポロファクトリー」の称呼、観念が生ずるので、本願商標とは非類似であると判断した。
正に取引の事情を十分に勘案した極めて妥当な判決であり、特許庁が取引の実情をいうのであれば、このような判断を期待したいところである。なお「FACTORY」のような営業主体を表示する商標の判断については、審決データファイルの「商号的商標の識別性と類似性」に審決をまとめているので参考にされたい。

ISOマウントエクステンダー事件

知財高裁 H21.5.28 H20(行ケ)10351 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

本願商標「ISO-Mount-Extender/ISOマウントエクステンダー」が、国際標準化機構を表示する著名な標章「ISO」を含むため、法4条1項6号に該当するとして拒絶され、その審決の取消しが求められた事案である。
判決は、本願商標中の「ISO」の部分が他の文字部分と異なる外観を呈していること、本願商標全体の観念が不明確であること、商標全体の称呼が冗長であること、「ISO」が国際標準化機構の著名な略称であることなどから、「ISO」の部分が独立して見られるため、需要者らは、本願商標を使用した商品が、国際標準化機構が定める規格に適合した商品であろうとの印象を抱くので、両者は類似するとして拒絶審決を支持した。
判決のように、「ISO」は国際的な品質管理体制を行っていることを示すために各企業が取得に努力するなど話題の規格として広く知られているので、「ISO」の部分が独立して見られる態様においては、4条1項6号の適用は止むを得ないであろう。なお商標「ISONATE DIAMOND」については、6号該当性なしと判断されている(不服2004-16770)。
その他、6号に該当するとされた公的な標章としては、「アメダス」(不服2003-14005)、「FSA(金融庁)」(不服2004-6585)、「Olympic」(不服2004-65110)、「エコアクション21」(不服2002-12027)などがあり、逆に該当しないとされたものでは、「CBCC(海外事業活動関連協議会)」(不服2004-4055)、「ITTO(国際熱帯木材機関)」(不服2003-323)などがある。判断の境目が見えてきそうである。

新極真会事件

知財高裁 H21.5.27 H20(行ケ)10324 審決取消請求事件(飯村敏明裁判長)

極真空手にまつわる一連の商標に関する事案である。極真空手は、創始者の死後、様々な支部に分裂し、それぞれ空手活動において「極真」ないし「極真会館」やこれらに類似する標章を使用してきたが、同じく支部長の1人であった者が組織した被告が、本件商標「新極真会」を出願し登録した。
これに対して、極真標章の正当な相続人と主張する原告が、4条1項7号公序良俗違反を理由に無効審判を請求したが、認められなかったので当該審決の取消しを求めた。
しかし、判決も、極真会館の各支部長は、その義務を果たす限り関連標章を使用することができたこと、被告も極真会館が分裂するまでは関連商標を使用することができたこと、そして被告は他の分派との区別のために本件商標を登録したのであって、出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くことはないとし、一方、原告が極真標章に係る権利を承継したとはいえないとして、原告の請求を棄却し、審決を支持した。
似たようなケースで、本年3月に下された筝曲芸名相続事件判決がある。

クイックチェンジ事件

知財高裁 H21.5.27 H20(行ケ)10442 審決取消請求事件(飯村敏明裁判長)

本願商標「QuickChange」(標準文字)が引用商標「BL(ロゴ)クイックチェンジ」により拒絶され、その審決の取消しが求められた事案である。
原告は、引用商標中の「クイックチェンジ」が産業機器の分野において商品の品質・効能を示す慣用語であることなどを挙げ、要部が「BL(ロゴ)」の部分にあると主張したが、裁判所は、いくつかの例があるからといって、「クイックチェンジ」が要部とならないことはないとして、両商標を類似商標と判断した。
仮に、「クイックチェンジ」が識別力を欠くと判断された場合、標準文字の本願商標も同様に識別力を欠くことになるが、その辺の原告の作戦が見えて来ないようである。

末廣精工株式会社事件

知財高裁 H21.5.26 H21(行ケ)10005 審決取消請求事件(滝澤孝臣裁判長)

本願商標「末廣精工株式会社」が他人の名称を含む商標であり、その承諾を得ていないとして商標法4条1項8号により出願が拒絶され、その取消しが求められた事案である。しかし、本判決においても、本年2月の株式会社オプト事件判決と同様、条文通りの解釈を行ない、拒絶審決が支持された。
原告は、法人の場合の人格権保護について、<当該商標から「他人」である法人が自然に想起され、そのことによって当該法人が社会的、経済的に何らかの有形、無形の不利益を蒙る可能性があるという点にその被侵害利益の実質が存する> と判示した東京高裁判決(H14(行ケ)150)を引用し、引用会社との事業内容の相違や原告会社の知名度などを示し、引用会社の人格権が害されるおそれはないと主張した。
原告の主張に賛成である。けだし、法人の場合の名称の採用は任意的であり、個人名と異なりいつでも変更が可能である。本件においても、後日、引用会社の名称が変更される可能があるが、その場合、引用会社の人格権はなくなってしまうのであろうか。個人の場合、死者には8号の適用はないが、法人が名称変更した場合であっても、法人が存続する以上、その人格権は保持されているであろう。もちろん、その名称変更の時点で8号の適用はなくなるが、もし法人に保護すべき人格権を認めるのであれば、旧名称であっても8号が適用されるべきであろう。
やはり、原告が主張するように、法人の8号の適用にあたっては、単に同一の名称の法人があるから保護するというのではなく、現実に引用会社の人格権が毀損されるおそれがあるか否かが具体的に審理されるべきであろう。そして、識別性のある名称が他人によって商標登録されたとしても、自己の名称の使用については、法26条の商標権の及ばない範囲として差支えがないのである。
なお2月の株式会社オプト事件のように引用会社が6社もあるような場合は、あふれた名称として法3条1項4号で拒絶すればよいのではなかろうか。

シアリス模造品事件

大地判 H21.5.21 H20(ワ)6081 損害賠償請求事件(山田陽三裁判長)

ED治療薬「CIALIS/シアリス(登録商標)」の模造品を販売した被告に対して、商標権侵害として損害賠償が認められた事案である。
模造品であるので商標権侵害が認められるのは分かるが、判決にはいくつかの注目すべき点がある。
まず第一は原告適格である。商標権者は米国イーライリリーアンドカンパニー(Eli Lilly & Company)であるところ、原告はその子会社のリリーアイコスエルエルシー(Lilly ICOS LLC)であるが、子会社だからといって当然に原告適格があるのであろうか。原告は、商標権者と米国ICOS社との共同出資で設立されたようであるので、原告の100%子会社でもないようである。また専用使用権者ともいっていないので原告は通常使用権者ということかも知れないが、独占的通常使用権者であれば、損害賠償請求権が認められている。この点について判決ではまったく触れられていない。
第二は、商標権侵害事件であるにも拘わらず、損害賠償請求権の根拠を民法709条の不法行為に求めている点である。上述の独占的通常使用権者の場合、商標法上の請求権がないので民法に根拠を求める以外にないが、判決では「原告の請求(訴訟物)」として、「・・・本件商標権を侵害するとして民法709条の不法行為に基づく損害賠償・・・」といっている(判決3頁)。独占的通常使用権の侵害ではなく、商標権の侵害といっているのであるが、妥当なのであろうか。
最後に、損害額の算定について商標法38条2項を適用し、侵害者の利益を原告の損害として認定している点である。独占的通常使用権の侵害であれば、類推適用を認めた例があるようであるが、この点について被告はまったく争っていない。商品の販売に関する商標使用料の有無など原告と商標権者との関係が不明であるにも拘わらず、当然のように法38条2項が適用されている。
なお独占的通常使用権の侵害については、「特許権の侵害者に対する独占的通常実施権者の損害賠償請求権」(金子敏哉著、知的財産法政策学研究 Vol.21(2008)203頁)に詳しい。

ジーンズポケットステッチ図形事件

知財高裁 H21.5.12 H20(行ケ)10449 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

リーバイスのジーンズのバックポケットのステッチの形状の類似性が争われた事案である。
本件登録商標(右掲)に対して、リーバイ・ストラウス社より無効審判が請求された。特許庁では、両商標の類似性を否定し、法4条1項10号及び同11号の該当性を否定したが、リーバイスジーンズのステッチ図形の周知著名性を認め、出所混同のおそれがあるとして同15号により登録無効の審決を下した。その取消しが求められたが、知財高裁においても、審決とほぼ同様の事実認定により、出所混同のおそれを認めた。
出所混同の形態について判決では、親子関係や系列会社等の密接な営業の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれを最初に例示し、本件においては、リーバイ・ストラウス社ないし同社と関係のある営業主の業務に係る商品等であると誤信させ、同社の商品等との混同を生じさせるおそれがあると認定している。
15号と両商標の類似性については、審決も判決も、ポケットの中央下部を中心としてそこから左右に延びる2本のステッチで構成される基本的な態様が共通することから、<両者は相当程度近似する形状である>と指摘している。
ジーンズのポケットの形状やスポーツシューズのサイドのラインなどは、古い商標概念では「商標」とは認められていなかったが、不正競争防止法判決の積み重ねや立体商標制度の導入などにより、今ではそれらが商標であることは疑いないものとなったのである。

4月分

アイピッチ事件控訴審判決

知財高裁 H21.4.27 H21(ネ)10018 商標権移転登録抹消請求事件(飯村敏明裁判長)

本年2月5日東京地裁判決の控訴審事件である。控訴人(原審原告)は、控訴審において、契約期限到来による終了に基づく主張を新たに追加した。契約の期限は原審判決後の2009年2月29日であるところ、両当事者が60日前までに契約延長の申入れをしなかったため契約は終了としたとして、判決は原判決を変更し、商標登録の移転登録手続きを命じた。

ラブコスメ事件

知財高裁 H21.4.27 H20(行ケ)10380 審決取消請求事件(飯村敏明裁判長)

登録商標「ラブコスメ」に対して、引用商標「Love/ラブ」に基づき無効審判が請求され登録無効の審決が下された。その審決の取消しが求められた事案である。
審決では、本件商標の指定商品は第3類「化粧品」であることから、「ラブコスメ」中「コスメ」は識別力を欠くので「ラブ」が要部と判断されたが、判決では「コスメ」の語が「コスメッティック」「化粧品」の意味で一般的に認識されていないこと、そして「ラブコスメ」が5音というごく短い構成であることなどから「ラブコスメ」一連の称呼のみが生じ、単なる「ラブ」の称呼は生じないとして引用商標とは非類似の商標であるとして、無効審決を取り消した。
「コスメ」が「化粧品」の意味で一般に認識されていないとの判決には賛同できないが、たとえ「コスメ」が「化粧品」の意味で知られていたとしても、「ラブコスメ」のような比較的短い称呼にあっては、たとえば「コカコーラ」を「コカ」とは言わないように、記述的な部分も含めて称呼されるのが自然と思われるので、「ラブコスメ」のみの称呼が生ずるとの判決は妥当であろう。当サイトの審決データファイル「記述的語を含む商標の類似」に同様の審決例が掲載されているので参照されたい。
なお両当事者間において商標権侵害事件があり、大阪地裁(18(ワ)4737)では類似商標と認められ、控訴審の大阪高裁(19(ネ)3057、20(ネ)420)では、非類似の商標と判断されているので、本判決は大阪高裁の判断の流れを汲んでいるようである。
また知財高裁は、原告出願商標「Love cosmetic/ラブコスメティック」については、引用商標「LOVE/ラブ」に類似すると判断し、拒絶審決を支持している(20(行ケ)10042)ので、併せて検討されたい。

アークエンジェルズ事件

大地判 H21.4.23  H19(ワ)8023 不正競争行為等差止請求事件(山田陽三裁判長)

捨て犬などの動物を保護し、里親を探すなどの動物保護団体に係わる事案である。原告は「ARK」及び「アーク」の名称に下に活動を行うNPO法人であり、一方、被告は「Ark-Angels」「アーク・エンジェルズ」の名称の下に動物保護活動を行う個人である。被告も理事として一時期原告の活動に関与していたが、関係が悪化したため、その名称の使用差止めが求められた。
判決では、原告が平成7年の阪神大震災の際に動物の保護にあたったことが報道されたなどの事実に鑑み、原告表示「Ark」及び「アーク」の周知性を認めた。
一方、被告表示「Ark-Angels」については、動物保護の取引者、需要者間において原告の「Ark」「アーク」が周知されていること、並びに被告が設立当初「アーク」の姉妹団体として自己を公表していたことから、被告表示の要部を「Ark」「アーク」であるとして、両者表示は外観、称呼、観念において類似又は同一であると認定した。また、混同の事例もあることから、不競法2条1項1号の該当性を認め、被告表示の使用差止めを認めた。
なお被告は、被告表示「アークエンジェルズ」の名称について当初原告が使用許諾していたと反論したが、判決では、被告の名称は原告の活動の一環を表示するためのものであったとして、被告自身の活動全般について使用許諾があったとは認められないと判断した。また判決では、被告ドメイン「ark-angels.jp」の使用差止めと100万円の無形損害(慰謝料)の賠償を認定している。
以上が本件の概要であるが、商標の類似性に関して判決は、上記の理由のほか、被告表示中「エンジェルズ」の語が日本語としてよく知られた言葉であり、識別力が弱いことを両商標が類似することの理由として挙げている。しかし、たとえ「エンジェルズ」の語がよく知られていたとしても、動物保護活動について「エンジェルズ」の語が一般的であるという事情がある場合以外、当然に識別性が弱いということはできないであろう。
ちなみに、「アークエンジェル」とは、ウィキペディアによると、キリスト教において「大天使」といい、神と人間を結ぶ連絡係であると説明されている。とすれば「アークエンジェルズ」はまとまった言葉となるので、本来一体と見るべきことなる。事実、他でも「アークエンジェル」の商標登録例や使用例がある。
本件の事実関係においての結論は判決の通りであるが、原告表示「アーク」が周知されているのであれば、同じ活動を営む被告表示「アークエンジェルズ」が原告の活動と混同を生ずるおそれがあることは説明されるので、「エンジェルズ」がよく知られた日本語であるとまで商標類似の理由として言及することはなかったように思われる。

ガールズウォーカー事件

知財高判 H21.4.8 H20(行ケ)10361 審決取消請求事件(塚原朋一裁判長)

ラインキングウォーカー事件

知財高判 H21.4.8 H20(行ケ)10362 審決取消請求事件(塚原朋一裁判長)

ボーイズウォーカー事件

知財高判 H21.4.8 H20(行ケ)10363 審決取消請求事件(塚原朋一裁判長)

ミュージックウォーカー事件

知財高判 H21.4.8 H20(行ケ)10013 審決取消請求事件(塚原朋一裁判長)

ショッピングウォーカー事件

知財高判 H21.4.8 H20(行ケ)10014 審決取消請求事件(塚原朋一裁判長)

第16類外を指定商品とする登録商標「girls walker/ガールズウォーカー」、「ranking walker/ランキングウォーカー」、「ボーイズウォーカー」、「ミュージックウォーカー/Music Walker」、「ショッピングウォーカー/Shopping Walker」に対して、「東京ウォーカー」「関西ウォーカー」などを発行する角川グループが、出所混同を生ずるおそれがあるとして「印刷物」について一部無効審判を請求したが、不成立との審決を受けたため、その取消しを求めた事案である。なおミュージックウォーカー事件では、第9類「電子出版物」も無効の対象としていた。
判決では、角川グループの「都市名又は地域名+ウォーカー/Walker」を題名とする雑誌の周知著名性を認めたが、
1. 被告サイトにおいて原告やその関連会社との誤解が生じているとの事実がないこと、
2. 第三者による「○○+ウォーカー」なる多数の商標が登録され、書籍等が流通していること、
3. 両商標が非類似の商標であること、
などを理由に出所混同のおそれはないと判断し、審決を支持した。

注目すべき点はいくつかあるが、通常、不競法の周知表示とは具体的に特定されたものであるところ、あたかも「サザエさん」のキャラクターのように、「都市名又は地域名+ウォーカー/Walker」という抽象的な表示態様に周知性を認めたことが挙げられる。従って、同様の他社タイトルの雑誌に対しては権利行使が可能となる。
次に、被告表示の使用態様について、無効対象商品は「印刷物」であるところ、判決では被告の携帯やパソコンの情報サイトと原告地域情報誌とを比較している点がある。被告が提供しているのは、女性向けファッション等の情報サイトであり、「雑誌」に近いものといえば「メールマガジン」や「ウェブマガジン」程度であるが、これらは第16類に該当するものではない。従って、第16類「印刷物」の登録無効の可能性判断のため、他のクラスに属する商品あるいは役務についての使用を判断材料としたことになるが、問題はないであろうか。

なお被告は、「ランキングウォーカー」や「ボーイズウォーカー」、「ショッピングウォーカー」等は使用していなかったようであり、これら事件でも被告サイト「ガールズウォーカー」について言及されている。
原告雑誌については、地域情報誌という新しいタイプの雑誌であって、「訪ね歩く人」という「ウォーカー」の語が斬新かつ使い勝手が良かったため、直ちに同業者にも好まれるものとなり、多数の商標が登録され、使用されるようになってしまった。その結果、原告商品がパイオニア雑誌であったとしても権利が制限されることは致し方のないことのようである。つまり、ネーミングが良すぎた結果といえようか。
なお本判決の一部報道で、「『○○ウォーカー』他社もOK」と題したものがあり、あたかもすべての「○○ウォーカー」に問題がないかのような誤解を与えているが、「都市名又は地域名+ウォーカー/Walker」については、不競法違反のおそれがあるので、判決をきちんと紹介することが大事であろう。

3月分

Navel事件

知財高判 H21.3.31 H20(行ケ)10466 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

無効審判における職権審理についての事案である。原告は、無効審判の弁駁書において法4条1項19号の該当性を主張したが、審決がこれを職権で取り上げなかったことを審決取消事由として主張した。判決では、職権審理は審判合議体の裁量であり、原告が主張する無効理由を職権で採り上げなかったことは違法ではないと判断した。
本件商標は、並行して不使用取消審判請求を受け、答弁がなされずにH20年8月28日に登録取消審決が下されている。つまり、無効審判の審決送達の時点ですでに本件商標を取り消す旨の審決が出ているのであるから、本件審決取消訴訟の実益はなかったようにも思えるが、将来に向かっての登録取消とそもそも無効との法律判断には根本的な違いあるので、当事者にしてみれば、一概に無効審判には実益がないとも言えないのであろうか。

もっこりBOMBER事件

東地判 H21.3.27 H20(ワ)5826 不正競争行為差止等請求事件(大鷹一郎裁判長)

不競法2条1項3号形態の模倣に関する事案である。原告は、タイの民族人形を参考にし、股間部分にボンボンの1つを取り付けた「まりもっこり」に似た形状の商品「もっこりBOMBER」を開発したとして、同様の人形「もっこりトゥカター」を販売する被告に対して、使用差止めを求めた。
しかし、判決では、原告商品を原告が単独で発案したとまでは認められず、被告従業員との共同の発案の可能性も否定できないとして、原告商品は原告が独自に開発した商品であり、被告にとって不競法2条1項3号所定の「他人の商品」であるとの原告の主張は理由がないとして原告の請求を退けた。
判決には、原告商品開発の経緯に関して、原告代表者及び被告従業員の証人尋問の内容が掲載されているが、いずれも不明瞭な供述部分があり、裁判所としても、誰が実際の商品開発者であるのか特定できなかったようである。 この種の商品開発はワイワイなりながら進めることも多いのであろうが、商品が売れ出した場合にはもめることが多いので、開発段階で商品の責任者や開発の守備範囲等を明瞭にしておくことが必要であろう。

ブライド事件(A事件)

知財高判 H21.3.26 H20(行ケ)10352 同10363 審決取消請求事件(田中信義裁判長)

ブライド事件(B事件)

知財高判 H21.3.26 H20(行ケ)10353 同10364 審決取消請求事件(田中信義裁判長)

商標法53条使用権者による不正使用取消に係る事案である。登録商標「BRIDE/ブライド」について使用権が設定された。使用権者はこれを「BRIDE」として使用するほか、「ブリッド」のカタカナも使用した。
一方「自動車用スポーツシート」について「BRIDE/ブリッド」を使用していた被告が、本件登録商標に対して取消審判を請求し、取消審決が下された。その審決取消を求めて商標権者側が本訴を提起した。
判決では、審決同様、被告商標の周知性を認め、原告商標の使用は被告商品と混同を生ずるおそれがあるとして、審決を支持した。
被告は、取消事由2として、被告は原告商標権を侵害していたので53条の請求人適格を欠く旨を主張したが、判決では、原告商標「BRIDE/ブライド」と被告商標「BRIDE/ブリッド」とは外観は一部類似するものの、称呼が異なり、観念が比較できないので非類似商標であるとして、侵害を否定した。
なお本件と並行して、名古屋地裁において、原告商標権侵害を理由に、原告が被告に対して差止請求訴訟を提起し(H18(ワ)1587)、逆に被告が不正競争防止法違反を理由に原告に対して使用差止請求訴訟を提起している(H18(ワ)3143)。
名古屋地裁は事件を併合審理し、商標権侵害事件では、被告の先使用権を認め、逆に不競法事件では被告の主張を認め、原告商標の使用差止めを認めている。併せて検討すると良いであろう。

NANYO事件

知財高判 H21.3.24 H20(行ケ)10326 審決取消請求事件(田中信義裁判長)

商標法51条の不正使用を理由とする取消審判において、被告商標権者側の登録商標の使用態様が商標としての使用か否かが争われた事案である。
被告商標権者は不動産仲介業者であり、そのホームページ中の複数の「スタッフ日誌」の項目毎にきわめて小さく登録商標を使用していた。審決では、この態様は項目毎の目印として使用されているものであり、商標として使用されているものではないと判断し、取消請求を不成立とした。
判決では、スタッフ日誌は物件周辺の魅力を紹介し、借り手を誘引するものであるので、法2条3項8号の「広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」にあたるとして、審決を取り消した。
従って、事件は審判に差し戻され、51条の不正使用の要件について審理されることになった。
なお現在の被告ホームページでは、左上部の会社名の左側に登録商標が表示されて居り、商標として使用していることは疑いないが、登録商標がモノクロであるのに対し、使用商標は着色されて居り、それが原告商標と類似するものであるかどうかが今後の争点になるようである。

アイピーファーム事件

知財高判 H21.3.24 H20(行ケ)10371 審決取消請求事件(田中信義裁判長)

登録商標「アイピーファーム」が商標法3条1項6号に該当するとして無効とされ、その審決の取消しを求めた事案である。判決は、「アイピーファーム」は「IP FIRM」を想起され、複数の特許事務所が英文の略称として使用していることを指摘し、無効審決を支持した。出願商標「TOKYO IP FIRM」に関する判決(H18((行ケ)10192)と軌を一にする判断である。

ARIKA事件

知財高判 H21.3.24 H20(行ケ)10414 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

不使用取消審判において商標登録が取り消されたことに対する審決取消請求事件である。被告は、原告登録商標「ARIKA」(第35類)に対して不使用取消審判を請求し、これに対して原告は音楽CDやゲームソフトの販売情報を掲載したウェブサイトを使用証拠として提出した。審決では、当該サイトは、自社の製品の広告に過ぎないので、「商品の販売に関する情報の提供」という役務についての使用とは認められないとして、登録を取り消した。
判決では、原告サイトは、他社製品である音楽CDやゲームソフトの販売に関するものであるので、そのような情報の提供は他人のために行う役務ということができ、「商品の販売に関する情報の提供」に該当するとして審決を取り消した。
確かに、原告サイトは他人の商品の販売に関する情報を提供しているので、形の上では「商品の販売に関する情報の提供」に当るであろう。しかし問題は、情報提供が他人のために有償で行われているか否かである。被告もこの点を指摘して反論しているが、判決では上記のように認定するに留まっている。中野裁判長らしい独我的判断と思われる。
証拠によると、原告は、原告サイトから音楽ソフトが売れた場合、発売元から20%のロイヤルティが支払われるとある。またゲームソフトについては、メーカーとの開発委託契約があるので、当該製品は自社の製品に過ぎないと認められる。
そうすると、音楽ソフトについて原告は、単に小売店サイトとして商品の販売を行っているだけと見るべきであろうが、あるいは見方によっては、他人のために有償で商品の宣伝広告を行っているだけで、その広告費が売価の20%ということなる。しかも、情報の提供に対する対価は、情報を受ける者が直接支払うべきであるので、原告は「商品の販売に関する情報の提供」を有償で行っているのではなく、第35類「広告」について本件商標を使用していたと認定し、審決を取り消すべきであったであろう。
論文「東京メトロ事件」で批判したように、商標法上の「商品/役務」に関する最近の裁判所の判断には、対価、つまり有償性の認定の点で問題があるように思われる。

皇寿(ドリンク)事件

知財高判 H21.3.17 H20(行ケ)10411 審決取消請求事件(田中信義裁判長)
知財高判 H21.3.17 H20(行ケ)10412 審決取消請求事件(田中信義裁判長)

出願商標「皇寿ドリンク」「皇寿」と引用商標「コージュ」との類似性が争われた事案である。両商標からは「コージュ」の称呼が生ずるので、審決では当然のように両商標を称呼上類似すると判断した。
出願人である原告は、両商標の文字構成の外観上の相違を主張したが、裁判所は、外来語以外においても同一語の漢字表記とカタカナ表記が併用されることがまま見られることから、両者が別異の商品であると認識させるほど特段の強い印象を与えるものではないとして、称呼上類似するとする審決を支持した。
また観念についても、「皇寿」は「111歳の祝い」を意味するが、「喜寿」や「米寿」ほどには知られていないので観念を重視することはできず、むしろ「清涼飲料」という低廉な日常消費物質においては、商品の名称、すなわち称呼が極めて重要な要素となると判断した。
原告は、取引の実情下における称呼同一非類似商標という最近の判断にもって行こうとしたようだが、漢字とカタカナという違いだけでは非類似と判断させることは難しいようである。
なお原告は、引用商標に対して不使用取消審判を請求していることも主張したが、判断時が審決時であり、その時点で取消審決が出ていない以上、この主張は認められなかった。従って、原告は再出願する以外にないであろう。

筝曲芸名相続事件

東地判 H21.3.12 H20(ワ)3023 商標権侵害排除請求事件(阿部正幸裁判長)

筝曲の家元の相続に係わる事案である。原告及び被告とも、山田流筝曲の家元であり人間国宝であった二代上原真佐喜氏の養子である。上原真佐喜氏は平成8年に逝去し、原告がその芸名「上原真佐喜」を第41類「技芸の教授・音楽の演奏」について平成11年に商標登録した。そして、同じく「上原真佐喜」の芸名の下に演奏活動を行なっている被告に対して、商標権侵害を理由としてその使用差止めを求めた事案である。
被告は、答弁として、原告は被告が遺族であることを特許庁に秘匿して原告商標を登録したものであり、二代目の名声に便乗し、これを傷つけるものであるので公序良俗に違反したものであり、無効とされるべきと主張した。
裁判所は、原告及び被告とも二代目から正式な後継者として認められたものではなく、両者は同等の立場であって、原告が唯一の「正当な地位」を有する本件商標の出願人とは認めがたいので、原告商標登録が直ちに公序良俗に違反し、無効とされるべきと認めることはできないとして、被告の主張を退けた。
一方被告は、平成9年以降一貫して「上原真佐喜」の芸名の下に演奏を行ない、そして平成18年には家庭裁判所により戸籍上の氏名を「上原真佐喜」と変更することの許可を得ているので、原告が被告標章の使用差止めを求めることは権利の濫用に当ると判断した。
商標制度以前からある家元制度。その相続の基準も流派によって異なるのであろう。そのような伝統的な家元制度が「芸名」というサービスマークとして商標制度の下において律せられることになった。本来であれば、誰が正当な承継人であるかは流派内で決められるべきであろうが、商標登録がからむことによって、本件のような裁判事件となったのである。
本件では、原告被告とも、裁判所によって唯一の正式な後継者ではないと判断されてしまったが、そうすると山田流筝曲の承継人は二人ということになるが、今後は伝統ある芸名の保護は不正競争防止法によらざるを得なくなるのであろう。
なお技芸の家元ではないが、似たような事件として、極真空手の一連の判決(大地判 H14(ワ)1018ほか)や審決例がある。文献としては、「最新判例からみる商標法の実務」(青林書院)(P288)を参照されたい。

エスカット事件

知財高判 H21.3.10 H20(行ケ)10220 審決取消請求事件(田中信義裁判長)

未登録商標を使用していた結果発生した事案である。当初、日本地場産業が「床暖房システム」について商標「スカット」「エスカット」「Scut」などを使用していたが、商標登録はしていなかった。H14年1月に日本地場産業が倒産した後、同社の施設及び資材を譲渡担保により占有管理するようになった原告が、H15年5月より「Scut」を使用して床暖房の製造販売を開始した。
一方、日本地場産業の役員であったAは、H14年1月に同社を辞任し、H15年春頃より本件商標「エスカット/S-cut」を使用して床暖房の販売を開始した。H15年8月には被告会社が設立され、H18年1月に被告が本件商標を登録出願した。その後、H18年6月にAは被告会社取締役に就任し、H19年3月に本件商標が登録された。
このような状況において、原告が被告の本件登録商標に対して4条1項7号、同10号、同15号違反を理由に無効審判を請求したが、認められなかったので、その取消を求めた事案である。
裁判所は、原告の商標使用は日本地場産業の事業を承継したものではなく、自らのための開始をしたものであり、同商標が登録商標でなかった以上、Aが本件商標を使用しても日本地場産業や原告との関係において信義則に反し背信的なものではなく、また本件商標の出願の経緯についても著しく社会的妥当性を欠くものではないとして、4条1項7号該当性を否定した。
また10号15号の該当性についても、本件商標の出願当時、原告商標は周知されていなかったとして、該当性を否定した。
仮に、日本地場産業の商標が登録商標であったとしたら、商標権を原告が譲り受けることで、Aによって本件商標が使用され、その後商標登録されることは無かったかも知れないし、本件争いも避けられたかも知れなかった。(しかし、当時すでに類似商標が登録されていたので、日本地場産業による商標登録も難しかったかも知れないし、出願さえしていれば商標を変更するなど、まったく異なった展開になったであろう。)
なお原告商標の周知性が認められなかったので原告商標「Scut」と被告商標「S-cut/エスカット」との類似性については判断されていないが、興味があるところである。ハイフンを含む商標については、審決データファイルを参照されたい。

2月分

アガサナオミ事件

東地判 H21・2・27 H20(ワ)21018 商標権侵害差止請求事件(大鷹一郎裁判長)

登録商標「AGATHA」の商標権を侵害するとして、被告商標「Agatha Naomi」に対して使用差止と損害賠償が求められた事案である。なお最高裁掲載判決からは原告商標権が分からないが、多分第1545326号の2商標と推測される。
判決では、被告商標が同じ大きさと色彩で表記されていることのほか、「Agatha」については小説家アガサ・クリスティで知られていること、「Naomi」については女性の一般的な名前であることを理由に、被告商標は人名からなる商標であり、「アガサナオミ」の称呼のみが生ずるので原告商標とは非類似であるとして原告の請求を棄却した。
審決データファイルに示すように審決例では、フルネームの商標と、その姓か名のいずれかが同一の商標とでは非類似と判断される点で一貫しているが、共通する部分が周知商標の場合には、法4条1項15号により拒絶されることがある(McGUINNES/マックギネス=GUINNESS/ギネス S58審判14745)。
この点、本件においても原告は「AGATHA」が周知であることを主張したが、提出された証拠が原告日本子会社のウェブページのみであったため、周知性は認められなかった。
なお本件で気になったのが、原告が「AGATHA」からは、ローマ字読みあるいはフランス語読みで「アガタ」の称呼が、英語読みで「アガサ」の称呼が生ずると主張している点である。もし原告商標が周知されているのであれば、取引の実情として、いずれかの称呼によって周知されているはずであり、原告の他の登録商標からは、それは「アガタ」のようである。そうすると、被告商標「Agatha Naomi」とはますます混同のおそれがなくなってしまうからであろうか。外国語商標の称呼については、いずれ審決データファイルに掲載する予定である。

株式会社オプト事件

(知財高判 H21・2・26 H20(行ケ)10309 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

本願商標「株式会社オプト」に対して、同名の商号を有する数社企業名が引用され、他人の名称を含む商標であるとして商標法4条1項8号により出願を拒絶した審決の取消を求めた事案である。判決は、法4条1項8号は人格権保護を目的とするものであって、出願人と他人との事業が競合するかどうか、いずれが著名あるいは周知であるかといったこと考慮する必要がないとして、事業内容が異なるので人格権を毀損するおそれはなく、また指定役務の分野において原告商標が周知性を獲得しているとの原告出願人の主張を退け、審決を支持した。
本号の適用に当っては、国際自由学園事件(最高判H16(行ツ)343)やCECIL McBEE事件(東高判H16(行ケ)56)のように「著名な略称」について問題となることが多いが、本事案では同一の商号であるため、他の結論を求めることは難しいようである。
しかし、審判段階では、商標「株式会社TBK」(2007-15117)、「株式会社システムディ」(2007-303)、「株式会社マルゼン」(2006-19635)等のように、業種の違いにより8号に該当しないと判断したケースもあるので頑張ってみても良いであろう。

インディアンモーターサイクル事件

知財高判 H21・2・25 H20(行ケ)10231 審決取消請求事件
知財高判 H21・2・25 H20(行ケ)10230 審決取消請求事件
知財高判 H21・2・25 H20(行ケ)10109 審決取消請求事件
知財高判 H21・2・25 H20(行ケ)10030 審決取消請求事件
知財高判 H21・2・25 H20(行ケ)10029 審決取消請求事件
知財高判 H21・2・25 H20(行ケ)10006 審決取消請求事件
知財高判 H21・2・25 H20(行ケ)10005 審決取消請求事件
知財高判 H21・2・25 H20(行ケ)10388 審決取消請求事件
知財高判 H21・2・25 H20(行ケ)10343 審決取消請求事件
知財高判 H21・2・25 H20(行ケ)10342 審決取消請求事件
(以上塚原朋一裁判長)

一連のインディアンモーターサイクル商標に関する争いの事案である。アメリカのオートバイブランドである旧インディアンモーターサイクル社は、1953年に操業を停止し、その40数年後に旧インディアン社と関係のない日本の企業が類似するインディアン商標を登録した。これに対して、当該商標登録以前よりインディアン商標を使用していた原告が商標法4条1項7号、10号、15号を理由に無効審判を請求した。(最も登録が古い商標について争われたH20(行ケ)10388号は7号違反のみ。)
法4条3項では、同10号、15号の基準時を出願時としているが、判決では出願日である平成9年1月14日時点で原告商標は周知されていなかったとして、10号及び15号の該当性を否定し、特許庁の無効審決を支持した。
また7号についても、原告商標が周知されていなかったので被告による本件商標の登録は原告のビジネスを阻害し妨害する行為ではないとして、該当性を否定した。
周知ブランドであっても、企業が操業停止し、時が経ってそのグッドウィルが消滅した場合には、当該商標の採択は自由との判断であり、その場合には先願主義がそのまま適用されることになる。企業が消滅してもブランドの周知性が残っていたモズライトギター事件判決(東高判H14(行ケ)497)と比較検討してみると良いであろう。

エルレガーデン事件

知財高判 H21・2・24 H20(行ケ)10347 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

ロックバンド「エルレガーデン」を表す登録商標「ELLEGARDEN / エルレガーデン」に関する事案である。商標権者では、登録商標をそのまま普通書体で使用する一方、「ELLE」の文字を大きく、「GARDEN」の文字を「ELLE」に囲まれるように下に小さく表示した商標も使用していた(使用商標)。これに対して、フランスのブランドである「ELLE」が、登録商標を不正に変更使用し、「ELLE」と誤認混同を生じさせたとして商標法51条の取消審判を請求した。特許庁審決は、ELLE側の主張を認め登録を取り消した。その取消を求めた事案である。
判決では、使用商標と被告(請求人)商標「ELLE」とが類似すると判断したが、誤認混同のおそれはないとして、法51条該当性を否定し、審決を取り消した。 その理由は以下の通りである
1. CDの帯には「ELLEGARDEN」及び「エルレガーデン」の文字が表示されている。
2・ 一般に音楽作品では、通常アーティスト名やバンド名がCDの表題に併記されている。
3. その結果、使用商標がバンド名である「ELLEGARDEN」を表すことが容易に理解されるので、 「ELLE」とは誤認混同を生ずるおそれはない。
法51条の適用に当り、問題となった商標だけではなく、商品表示全体から判断している点で妥当な判断といえよう。

おおたかの森事件

知財高判 H21・2・24 H20(行ケ)10344 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

不使用取消審判において登録を取り消す旨の審決が下された。その取消が求められた事案であり、争点は不使用について「正当な理由」があったか否かである。
原告は正当な理由として、商標登録後アメリカに居住し、ハワイ大学における農業資源経済学の研究で多忙であったことを主張した。
しかし、判決は、正当な理由とは、
1. 法的規制により商品の製造販売ができなかった場合、
2・ 天災によって製造販売ができなかった場合、
3. 商標権者の責めに帰することができない事情によって使用できなかった場合
を挙げ、本件はいずれにも該当しないとして審決を支持した。妥当な判断である。なお「おおたかの森」とは、つくばエクスプレス線と東武野田線が交差する流山市の駅名に因んだ商標である。

プーマパロディ商標「シーサー図形」事件

知財高判 H21・2・10 H20(行ケ)10311 異議決定取消請求事件(中野哲弘裁判長)

スポーツブランドであるプーマ商標を、沖縄のシーサー風にパロディ化した登録商標が、プーマ社からの異議申立によって登録が取り消され、その異議決定の取り消しが求められた事案である。
異議決定では、シーサー商標が商標法第4条1項11号に該当するとして登録を取り消したが、知財高裁は、これを否定し、異議決定を取り消した。
当該異議事件は、当事務所が申立人代理人として関与したが、パロディ商標が有名ブランドとは異なる出所に係る商品であり、出所の混同が生じないことは明らかであるので、異議決定が下された時点で、法第4条1項11号の適用には無理があるように思われた。北海道や沖縄などの観光地では、たくさんの有名ブランドのパロディ商品が出回り、有名ブランドにフリーライドしている状態があるのであり、むしろ、そのようなパロディ商標自体の是非が論じられるべきで、法4条1項15号ないしは同19号の適用が検討されるべきであろう。
なおパロディ商標の異議決定には以下のものがあり、これらのケースでは法4条1項15号により登録が取り消されている。
異議 H10-90851  「BŌ ZU(図形)」・・・サントリー「BOSS」コーヒーのパロディ
異議 2007-900190 「adidog(図形)」・・・アディダス3本線のパロディ

アイピッチ事件

東地判 H21・2・5 H19(ワ)30807 商標権移転登録抹消請求事件(阿部正幸裁判長)

拒絶理由を解消するためのいわゆるアサインバック契約に関して、譲り渡した側が当該登録商標の移転登録の抹消を求めて提訴し、その理由として契約書の錯誤無効や詐欺取消しの成否が争われた事案である。
譲渡契約の内容は、「無償で一時譲渡する」というものであり、協力者である譲渡人側は、譲受人に対して、無償譲渡の代わりに将来の新規サービスに関する協力を期待していたようであったが、契約書にそのような明文規定はされていなかった。
そのため判決では、契約の要素の錯誤は認められず、また欺罔行為は無かったとして詐欺取消しも認めなかった。今後のアサインバック契約において、契約書作成に注意を喚起させる事案であろう。

1月分

Sportsman.jp事件

知財高判 H21・1・29 H20(行ケ)10295 審決取消請求事件(中野哲弘裁判長)

出願商標「Sportsman.jp」と引用商標「SPORTSMAN / スポーツマン」との類似性が争われた事案である。相違は、トップレベルドメイン「.jp」の有無である。当然、審決では類似商標と判断されている。
知財高裁の判断は、審決同様、インターネットの普及した現在、「.jp」からは使用主体が日本の団体又は個人という以上の意味はないので、出所識別標識としての称呼、観念は生じず、その結果、要部は「Sportsman」であり、引用商標と類似するというものである。
なお審決データファイルの「IT用語」には、ネット用語に関する多数の審決を掲載しているので参照されたい。

Mobiledoor事件

東地判 H21・1・29 H20(ワ)22987 不正競争行為等差止請求事件(大鷹一郎裁判長)

原告は、「消費者金融ナビ」なる名称のホームページにおいて、消費者金融会社に関する情報提供サービスを行なう企業であり、当該ホームページには作成者として「Mobiledoor」と表示していた(原告表示)。
一方、被告は、「消費者金融ナビ」の名称を含めて原告HPに酷似する体裁のHPにおいて、「運営会社 Mobiledoor」と表示していた。これに対して原告は、原告表示の周知性を主張し、不正競争防止法による使用差止めを求めた事案である。
しかし、東京地裁は、原告表示の周知性を否定し、一方で、被告HPにおいて「Mobiledoor」を表示していたのは被告であるとまで断定できないとして、原告の請求を棄却した。後段の理由として、被告HPのアドレスのドメイン名が被告代表者と同姓同名で登録されていたが、被告代表者以外の第三者が、同一名義でドメイン名の登録をうけた可能性があったことが挙げられている。
ホームページ関連の争いにおいて、相手方の特定に注意を要することが示唆される。

コラゲヴェール事件

知財高判 H21・1・28 H20(行ケ)10219 審決取消請求事件

ディープコラゲ事件

知財高判 H21・1・28 H20(行ケ)10221 審決取消請求事件

コラゲディープ事件

知財高判 H21・1・28 H20(行ケ)10222 審決取消請求事件

コラゲテクト事件

知財高判 H21・1・28 H20(行ケ)10223 審決取消請求事件(以上飯村敏明裁判長)

登録商標「コラージュ / Collage」を有する原告が、「コラゲ / COLLAGE」の語を含む登録商標「コラゲテクト / COLLAGE TECHTO」 「コラゲディープ / COLLAGEDEEP」 「ディープコラゲ / DEEP COLLAGE」 「コラゲヴェール / COLLAGE VEIL」などに対して、無効審判を請求したが認められず、それらの審決取消訴訟を提起した事案である。
知財高裁は、被告商標はいずれも同一の書体と大きさで表記され一体として認識される造語であるので、「COLLAGE」の部分のみが分離されることはないとして、原告商標とは類似しないと判断した。
また「COLLAGE」を含む商標は原告のファミリーマークであるとの原告の主張に対しては、「collage」の語は皮膚の老化防止や若返りの目的などで化粧品に広く使用されている「collagen」を想起させる識別性の強くない語であり、また原告商標は周知著名でもなかったので、被告商標がファミリーマークと見られることはないと判断している。
化粧品業界では、例えば「コラーゲン」を用いた商品が流行すると、これを想起させる「COLLAGE」などの語を使用した商標が多数採用されるようになるなど、化粧品業界に特有の傾向がある。これらについては、「化粧品審決データファイル」を参照されたい。

MIZUHO.NET事件

知財高判 H21・1・28 H20(行ケ)10258 審決取消請求事件(飯村敏明裁判長)

出願商標「MIZUHO.NET」と引用商標「MIZUHO」との類似性が争われた事案である。判決では、出願商標中の「MIZUHO」の部分が保険業務についてみずほフィナンシャルグループの使用に係るものとして広く認識されている上、「.NET」の部分はトップレベルドメイン名として独立して出所識別標識として認識されないので、出願商標と引用商標とは「MIZUHO」の文字部分において類似すると判断した。

RINASCIMENTO事件

知財高判 H21・1・28 H20(行ケ)10317 審決取消請求事件(飯村敏明裁判長)

不使用取消審判において、イージーオーダーメイドとして製造販売される「スーツ」が、旧第17類の商品か、あるいは第40類の「加工処理(被服の仕立縫製)」かが争われた事案である。
知財高裁は、「スーツ」の販売業者である伊勢丹が、顧客の採寸を行ない、顧客が選択した生地とサンプルデザインに基づいて原告に発注し、これに基づいて原告が「スーツ」を製造し伊勢丹に納品したという取引関係において、原告と伊勢丹との取引伝票に「買取」と記載されている点、「品名」として「シングルスーツ」と記載されている点、1点当りの原価金額が記載されている点等に鑑み、旧第17類に属する「スーツ」が販売されたと認定した。
レディメイドの「スーツ」とオーダーメイドの「スーツ」との違いであるが、仮に原告が直接テーラーとして顧客の採寸を行ない、顧客の希望に応じて「スーツ」を仕立てていた場合には、第40類の「仕立縫製」に該当するであろう。被告側は、原告は「生地」を販売していたに過ぎないと主張し、原告と伊勢丹との間は内部関係での商品の移動に過ぎないので、商標の使用には当らないと主張した。原告側の主張の見方を変えれば、伊勢丹は、原告の代理店として「仕立縫製」を行なっていたともいえるのであろう。見方の違いとも言えるので、議論のあるところであろう。
もう一つの争点として、すべて大文字で書かれている登録商標「RINASCIMENTO」と、その中の「R」「A」「M」の3文字が大文字で記載された使用商標「RinAsciMento」との社会通念上の同一性も問題になったが、この程度の相違は「仕立てスーツ」に使用する際の装飾的な変更に過ぎないとして、判決は両商標の外観的な同一性を認めている。

つつみのおひなっこや事件

知財高判 H21・1・27 H20(行ケ)10348 審決取消請求事件(田中信義裁判長)

本件商標「つつみのおひなっこや」は引用商標「つつみ」とは類似しないとして知財高裁判決を破棄した最高裁判決の差戻審判決である。最高裁判決では、商標法第4条1項11号の該当性を否定したので、同8号、10号、15号、16号、19号に係る無効理由について判断されている。
本判決では、「つつみのおひなっこや(屋)」の由来は、仙台市堤町で製造された土人形ないしはその製造業者群を一般的に総称したことによるものであり、昭和初期以降は歴史的呼称に止まり、同商品は一般には「堤人形」と呼ばれていたので、現代において「つつみのおひなっこや」を商標登録し独占的に使用することも自由競争の範囲内であるとして、無効事由該当性をすべて否定し、原告の請求を棄却した。